新宿で出会った40歳のアーティストがいなくなった。

ふと思ったことを書いてみる。つばきファクトリーの小片リサさんも活動休止になったし、ちょっとナーバス気味かもしれないですが……..!
 

 

出会いは新宿ゴールデン街

 

彼との出会いは、2019年の冬だった。

 

私は金曜の夜に、職場の人と一緒に新宿・ゴールデン街で飲んでいた。

 

私はお酒が弱いので、2件目でベロベロになっていて、「ネコが見たい」と同僚にわがままを言った。

 

やさしい同僚は、ネコがいるゴールデン街のお店を探しだしてくれて、そのお店に行くことになった。

 

 

 

 

そのお店に入ると、4人くらいしか座れなさそうな狭いカウンターと、ボックス席が一つだけあって、ネコはいなかった。

 

「あれ、ネコいないんですか?」と店員のお姉さんに聞くと、「ごめんなさい、ネコはいないんです看板、騙されますよね」とのこと。

 

看板には、「月曜日:ミケ」「火曜日:シロ」みたいなネコの名前らしき名前が記載されていて、それはすべて店員のお姉さんの名前(設定上)らしい。

 

まぁいいじゃないか、飲もう!と勢いよくカウンター席に座りこんだ私の隣に、彼は座っていた。

 

彼はこのお店の常連らしく、ゴールデン街初心者の私たちに歩き方を教えてくれた。

 

ぼったくりのお店とか、このお店には本物のネコがいるとか、2丁目の先に素敵なバーがあるとか。

 

私は酔っ払ったふわふわした頭で、「へ~……一緒にいきましょうよ!」と言ったらしい。

 

そうすると彼は、「これもなにかの縁ですし、次のお店いきますか」と言って、そそくさとお会計をしだした。

 

あまりちゃんとは覚えてないけど、冬の深夜1時近くの寒空の下を、同僚とふたり、新宿2丁目までずーっと歩いてついていった。

 

「やりたいことは遅かれ早かれやる」

 

彼が「ここです」と言った建物の、歩幅の狭い急な階段をつかつかのぼった。

 

そこには、暗いけど照明がふわっとやわらかくて、ジャジーな音楽がかかる素敵な空間が広がっていた。

 

新宿のバーカウンター

 

カウンターのみ、つめれば15人くらいはギリギリ座れそうな、こぢんまりとしたバー。

 

お酒を頼んでカンパイしたら、私の酔い度はマックスになって、初対面で失礼にもほどがあるけど、仕事のグチを吐いてしまっていた。

 

「私は商品を売りつけて女性の悩みを消化するなんてやりたくなくて、今の仕事がやりたいことと近いようで遠くて、すっごいもどかしくて全部全部ストレスなんです。便利なんじゃなくて、意味のある仕事がしたいんです、」

 

そんなようなことをダダダーっと彼に吐き出した。

 

そしたら彼は、同調するでも否定するでもなく、「やりたいことは遅かれ早かれやると思いますよ」と言った。

 

話を聞くと彼は、会社員のかたわらアーティスト活動をしていて、30代半ばでアーティスト活動を始めたらしい。

 

表現はしていたいけどお金は必要で、バランスが大切だけどなかなか難しいからズルズル会社員をやっていると、セキララに話してくれた。

 

「やりたいことは遅かれ早かれやる」という言葉が私にはガツンと効いた。

 

 

 

一応連絡先は交換したけど特に連絡しないまま月日が流れて、コロナの流行が深刻化した5月、彼からゴールデン街の画像が添付されたLINEが届いた。

 

ゴールデン街の画像

 

「新宿はこんな感じ。早く普通に飲めるようになりたい」

 

そのとき私は、自分のことでいっぱいいっぱいで、「そうですね、早く飲めるようになればいいですね~その前に、健康第一」みたいな、我ながらなかなか他人ごとなLINEを返した。

 

そこでやりとりは終わった。

 

なぜ、いなくなったのか?

 

そして先日、たまたま別の人のTwitterで彼の名前があがっていて、彼のTwitterにたどり着いてしまった。

 

最新の投稿は「引越し片付いた」という内容だった。

 

ツイートを遡ると、アーティスト活動をやめて新宿から北海道の田舎に移住するという。

 

「飲みたいから新宿に住んでいる」とまで言っていて、お気に入りのお店をいくつも持っていたのに。

 

そんなお気に入りの空間を手放してまで、仕事も音楽も全部捨てて遠くに行こうとすることに衝撃を受けた。

 

引越しツイートは、都知事・小池百合子が検査の範囲を「新宿の夜の街関連」にしぼっていた時期より少しあとの投稿だった。

 

彼の活動場所はもっぱら、バーや小さなライブハウスだったから、アーティストとしての生命線を絶たれたことが想像できた。

 

夜の街関連を悪例として注意喚起するニュースは、彼にとって自分のアイデンティティを全否定されるような感覚だったのではないだろうか。

 

居心地のよい居場所が全否定される場所になんて誰だっていたくないし、自分の好きな場所がバタバタとなくなっていくのをみて、耐えられなくなったのかもしれない。

 

 

 

 

10月になった今もコロナ感染者数が減ったわけではないし、ワクチンもできていないけど、5月6月ほど新宿区の「夜の街関連」にまつわるニュースは報道されていない。(というか恐ろしいくらい、聞かなくなった……)

 

振り返ってみると、小池都知事が毎日「夜の街関連」について一生懸命訴えていたのは、都知事選も控えていた時期だったから“お飾り”でやっていたアピールなのだと思ってしまう。

 

そのしたたかなパフォーマンスのせいで、夢も仕事も好きな場所も手放して、心が空っぽになってしまって新宿からいなくなる選択をした人がいたのかもしれない。

 

ガランとしたゴールデン街に、あんなにたくさんいた猫もいなくなった。

 

一体どうなっているの?!