「画家が見たこども展」に、たまたまタイミングが合って友達と行くことができたのですが、友だちは「絵のおもしろさがわからん」とのこと。たしかに、西洋画に惹かれる前は、私も「ピカソの絵は私も描ける」と思っていました。
西洋画にアレルギーがある方が意外と多い気がしたので、いちアートファンとしての楽しみ方を、あるあるっぽい質問を勝手につくってQ&A形式でご紹介します。
学芸員でも美術学生でもなんでもないのに恐縮ですが、無知(無興味)から突然ハマったことに我ながらパワーを感じているので、「西洋画の楽しみ方がよくわからん」という方に読んでみてほしいです。
Q. 西洋画って、歴史とか背景知らないと面白くないでしょ?
A. 歴史とか絵のウンチクより、まずはビビビッとくるか
私は世界史のテストのわからない箇所にとりあえず「ナポレオン」と書いていたほど、世界史が苦手(というか勉強全般が苦手)でした。
でも絵画は、その時代のワンシーンを切り取っていることが多いので、絵の背景を知ろうとすると、嫌でも歴史について知ることになります。
歴史がまったくわからず絵から先に入った身としては、まずはビビビッとくる絵と出会うこと、そしてその後で気になれば歴史を見ていくという順番でも充分に楽しめると思います。むしろ、その順番だったからこそ、絵の美しさと時代背景のギャップに魅せられたのかも。
私の場合、歴史背景を知ることで面白くなるというよりは、その当時と現代を照らし合わせることで面白くなるように感じます。国が違えばもちろん、政治とか文化も今とはまったく違うけど、完全に切り離して考えることはできない。
すべての人間に共通する普遍的な性質とか感情がある。いつの時代も、老若男女とか、その身分に関係なく、人間の本質は変わらないということが面白いです。そして、そこからヒントを得て、自分の考えを深めることが、また面白いです。
当時と現代に通じる普遍的な気づきがある
絵を見ていると、普遍的な人間の永遠のテーマに気づくことがあって、それについて画家がだした答えにも気づくことがあります。
私が一番好きなスペインの画家・ゴヤは、ナポレオン軍がマドリードで起こした残虐行為を描いた『マドリード、1808年5月3日』という絵を残しています。

私はここで初めて“ナポレオンは1808年を生きた人間なんだ”と気づくわけですが(汗)知識の乏しさについて、いまは都合よく脇に置いておいて。
ゴヤは宮廷画家にまでのぼりつめて、いわば画家として大成功をおさめ、貴族の仲間入りをしています。描ける絵に制限はあるものの、絵で成功できるのは、ほんの一握り。画家なら誰もが憧れるポストです。
でもゴヤは、ゴヤ自身が権力者側にいるにもかかわらず、権力や戦争、人間の欲望に対する反骨心やジャーナリズムの精神が、常に絵に出ちゃってるんです。ロッケンロールなんです。
たとえるなら、内田裕也が天皇に気に入られて皇居に住みつき、ギターかきならして君が代を歌ってるようなもんです。
そんなヤバい人間が、200年以上も前に一国の中心に所属していた事実が、とても面白いと思います。
Q. 私でも書けそう。技法が凄いと思えなくて退屈
A. グッと近づいて見れば、凄さがわかる
私の絵画の見方はこんな感じ。
①まずは全体をみる
②グッと近づいてみる
③角度を変えてみる
④また離れてみる
特にお気に入りなのが、②の時間です。全体を見ているときには、「被写体の様子をどう切り取っているか」とか「色彩がキレイ」とか、絵の雰囲気しかわかりません。
グッと近づいて見ると、漠然とした情報しかなかった絵が、どれだけ複雑なことをやっていたかがわかります。
色の選び方、絵具の重ね方、ベタベタ塗るのかサラサラ塗るのか、グラデーションの作り方……技法とか、好んで使う色・塗り方には画家によって個性がでるところで面白いし、それが評価されて価値がつりあがっているので、じっくり観察して噛みしめるのがおすすめです。
技法については、事前に知識をちょろっと入れておくことで、美術館に行ったときに理解しようとして見れます。(素人目ではとうてい理解に及ばないところも、もちろんありますが……)
たとえば「私でも書けそう」と思っていたピカソの「キュビズム」という技法は、いろんな角度から見た被写体のパーツを組み合わせて成り立っています。

配置が計算し尽くされていて、頭の中で細かい構想がないと、とても描けません。描いている過程の映像を観ると、いかに複雑なことをしているかが、わかりやすいと思います。「ミステリアス・ピカソ – 天才の秘密」の映画がおすすめ!
ピカソは多作な画家で、約15万点の絵を描いたことでギネスにも載っています。しかもビジネスも上手で、革新的なアートを生むために技法をコロコロ変えています。ちなみに、キュビズムに行き着く前の絵は普通に上手いです。
これはピカソが15歳のときの作品。先天的な絵の才能にプラスして、ギネスに載っちゃうくらい作品づくりを繰り返す努力家で、しかもビジネスもうまい。ピカソが紛れもなく天才であることを、わかっていただけると思います。
新しい発見が愛おしい!!!
近くで見たり、同じ作品を何回か見たりすると、「そこになぜこのモチーフを描いた?」みたいな新しい発見もあります。
写真であれば意図しないものが写ってしまうこともあるかもしれないけど、絵画の場合は画家が意図的に謎な部分を残していることが多いから、その謎を解明するのも面白いです。

たとえばマネの描いた『フォリーベルジェールのバー』も、謎多き絵画のひとつ。左上にぶら下がる足、鏡に映る女性店員の後ろ姿の位置、男を接客しているのに空っぽな表情をした女性店員など、不自然なところが多いです。
「なんでだろう?」と疑問に持ったところは自己解釈したあとで、解説を聞くのがおすすめ。できれば解説を読んだり聞いたりしたほうが、その絵の深みが増すと思います。そして、その絵のことを知れば知るほど、画家と絵のことが愛おしくなります!
Q. 印象派とか小難しくて覚えられない!
A. 画家に推しをつくることで解決◎
西洋画に苦手意識がある方のなかには、「宗教画が気持ちわるい」「印象派ってなんやねん」と思っている方もいるかもしれません。
西洋画は、小難しいし、うさんくさいところがあります。しかしこれらはすべて、画家に推しをつくることで解消されます。
絵に惹きつけられるのは、その絵を描いた画家に惹きつけられるのとイコールだと思います。なので、その画家が描いたほかの作品も、好みであることが多いです。
「プリテンダーって曲、めちゃくちゃいいじゃん」→「髭ダンディズムってバンドの曲らしい」→「ボーカルがスピッツに影響受けてるらしい」→「アルバム聴いてみるか」→「あれ、ほかのも結構いいじゃん」みたいな感じ。(内容は一例で事実ではないです)
・髭ダンディズムがどこのレーベルに所属しているのか→マネは「印象派」のひとり
・髭ダンディズムの歴史→マネは印象派展に不参加なのに印象派の父と呼ばれ、当時としてはスキャンダラスで革新的な絵を描く
・髭ダンディズムの曲調→マネはゴヤの黒に影響を受けている
・髭ダンディズムの曲の解説→マネのそれぞれの絵の解説
これらすべてを調べるのも、推しなら苦じゃないですよね。だから西洋画は、偶像に希望を感じるオタクに刺さるのかもしれません。
画家へのリスペクトが止まらない!!!
そうこうしているうちに、同じ人間として画家の凄みに憧れる瞬間が訪れます。
たとえば、画家・ピータードイグの『スキージャケット』という作品は、キャンバスが左右に分かれているのですが、はじめは右側だけを描く予定でした。この絵のモデルは日本(ニセコ)のスキー場のチラシで、掛け軸っぽく縦長にしたかったのだそうです。

しかし右側を描き終えたドイグは、なにか納得がいかず、全体のバランスをとるために左側にキャンバスを付け足しました。
この解説を聞いているときの私は、誰のためになっているかもわからない、ただ消費を促すだけの、くだらない仕事に時間を費やしている最中でした。
かたやピータードイグは、自分の想像力をフルに働かせて、消費を促すでも環境を汚すでもなく、想像からなる文化を価値にできている。
私は右側のキャンバス(決まった範囲内)での仕事しかできていないけど、ピータードイグは左側のキャンバス(枠を超えた想像力)の仕事ができる。
アーティストのおもしろくて憧れるところは、夢でみるようなふわっとした幻想をカタチにできるところであり、枠にとらわれない心の余白であり、これしかできないという“こじらせ”であると思います。
リスペクトするのはもちろん、繊細でいびつなところが作品で垣間見れると、一人の人間のカラダや頭をパックリと切り開いて見ているようでゾクゾクするし、見ていて気持ちがいいです。
Q. 美術館やギャラリーの見方、ルールがわからない
A. 見方、ルールはあってないようなもの
作品に触る、ぺちゃくちゃ喋る、ほかの鑑賞者の邪魔をする、写真を撮る……これらをしなければ、回り方とか時間は気にしなくていいと思います。写真は部分的にOKとしているところもあるので、スタッフに聞いてみてください。
ほかにも、わからないことがあれば、スタッフに聞くのが一番早いです。
美術館の場合は順路があって、意図してその順番で展示されていることが多いので、順路のとおり見るのがベターです。でも気になる作品があれば、また戻って見るもよし、イスが置いてあれば座ってしばらく眺めるもよし。
展示は、わざわざ海外の美術館に行かずに絵画を見られる、またとないチャンスなので、気のすむまで味わうべきです。次にいつその作品と会えるか、わかりません。
ギャラリーの場合は、初日に行くと作家から直接お話をきけることもあります。特にアートの購入を考えている方は、ギャラリーに行って作家と話してから購入を考えることが多いみたいです。投資目的でアートを買う場合、作品そのものはもちろん、作家の将来性を見極めることも大切なようで、会える機会があるなら会うべきとされています。
思いっきりオシャレして美術館に行くマイルール
オシャレすることへの興味が年々薄れていくのを自覚していますが、美術館に行くときだけは、なぜかオシャレをしたくなります。
たぶん、憧れの人に会うみたいな感覚に似てる気がします。憧れの絵と、いざ対面する瞬間に、Tシャツ・ジーパンではいたくないというか……すっぴんでコンビニ行ったら、たまたま好きな人に会って死にたくなる、アレです。
Twitterで見つけたアートファンの方で、美術館に行けば必ずポストカードを買って記録している方もいます。たぶん、これは彼女のなかのルールなんでしょうね。
そんな風に、マイルールを決めて美術館を巡ると、もっと楽しめるように思います。
Q. どうやって作品の情報を得ればいいの?
A. 展示、本、YouTube、ラジオ、映画
ざっくりアートの歴史の流れを知りたいなら、本がおすすめです。観賞用のアート本はたくさんでているので、見やすそうなものをパラパラめくってみてください。東京なら、新宿紀伊國屋4Fが充実のラインナップでおすすめです。
アート初心者が実際に見聞きして勉強になった、初心者におすすめのアート本とかラジオとかもまた別の記事で紹介したい!
でも本当は、百聞は一見にしかずで、展示に出向いて実際に作品を見てみるのが一番おすすめです。
いまはコロナの影響で入場制限がある展示が多くて、幸か不幸か、比較的ゆったり見れる気がします。
西洋画を見る(学ぶ)意味とはなんなのか?
西洋画を見たり学んだりする意味は、美術本によって、たくさんの見解があります。私が読んだ本のなかでひとつ、自分が西洋絵画を見る(学ぶ)意味に近いものを見つけました。
私の場合、絵画の背景を学ぶことに関しては、権力抗争とか負の感情とか人間の醜い部分、黒い部分に漠然とした疑問とか感心があって、その答えに近づくヒントを絵画が持っているように感じました。
当時の様子は伝わってくるけど、画家が伝えようとした作品の真の意味を知る手がかりが少ないから、人は学んだり研究したりします。
まとめ:西洋画は繊細さんのオアシス
絵画を見ることに関しては、私は常に万全でない状態の人間なので、心の隙間に絵のパワーがスッと入ってきやすかったのかもしれないです。
絵画を欲していない友達は、すでに自尊心が高くて、心が潤っているのかも。
自分に持っていないものだから、強く惹かれることってありますよね……
あとは西洋画を見ていて単純に視覚的に楽しいことと、自分が生まれる何百年も前の絵がキレイに残っていること、文化として価値が上昇し続けていることにもロマンを感じます。
人間のすべてが一枚の絵に凝縮されているような気がして、見れば見るほど、他人ごとから自分ごとになっていくから不思議です。
漫画・アニメ・音楽・本などの文化にももちろんヒントはあるけど、ノイズが多くて、たまにうるさく感じることがあります。
絵画は見る側にすべてをゆだねられていて、その余白も自分にあっていて心地いいんだと思います。
答えのないものをみて考えることは、感性を磨く作業ともいえる気がします。
今は西洋画に興味がない方も、ぜひ心が疲れたときに(?)じっくり観察してみてほしいです。