スペインの画家・ゴヤが、なぜあんなに不気味な絵を描いたのか、気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ゴヤの生涯や、晩年に描いた「黒い絵」の本当の怖さについてご紹介します!
画家・ゴヤが気になっている
絵画に明るくありません。宗教とか戦争とか歴史をそのまま反映しているものが多いから難しそうだし、なんなら見ると暗い気持ちになって気分が悪くなるぐらいでした。
そんな中、美術好きのアイドル・和田彩花さんのラジオをYouTubeでみた日を境にYouTubeの関連動画にやたらと絵画の動画が出てくるようになりました。そして「いとはる」さんという美術系ユーチューバーに出会い、初めて観たのがゴヤの紹介回でした。
ゴヤの絵をみたときに、「これは…!!!」となんともいえない衝撃を感じたんです。ドロドロした黒いものを感じて「みてはいけない」って思うのに、すごく惹きつけられてしまう、不思議な魅力にトリコになりました。
ゴヤはヤバいヤツ? その人生をさくっと紹介

ここまでグロテスクな絵を書くに至ったゴヤの人生が気になる、気になる!!!
ゴヤが過ごしてきた1746~1828年のドラマを、8行でまとめました。
・18歳 マドリードの「フランシスコ・バイユー」のアトリエで働き彼の妹と結婚 ・43歳 宮廷画家になる ・46歳 大病で耳が聞こえなくなる ・70歳 マドリード郊外に別荘「聾者(ろうしゃ)の家」を購入 ・78歳 フランス・ボルドーに亡命 ・80歳 宮廷画家を辞職 ・82歳 死去
ゴヤの画家人生は遅咲きで、もっというと46歳で聴覚を失ってからが本域だといわれています。楽しい音楽も大切な人の声も聴こえなくなることを想像しただけでも、絵が暗くなっていった理由が少しだけわかる気がしますね…
がしかし、ゴヤは聴覚を失う前から人間の表裏をよく理解していて、本質を常に見ているような人間だったのではないかなと思います。

この絵は、ゴヤが室内画家になってまもなく完成させた作品です。上等な格好をしていても、国王一族は浮かばぬ顔をしたり、ギロリとこちらを睨みつけていたり…
これは、「ゴヤが王室のリアルを描こうとした作品ではないか」と言われているそう。唯一光が当たらない場所、左奥に立っているのがゴヤ本人ですが、心なしか微笑を浮かべているようにも見えます。ゴヤは、国王一族を内心バカにしていたのかもしれません。
「異端審問(むごいやり方で反カトリックの人間を炙りだす裁判)」が当然にまかり通っていた当時のスペイン。そんな国のトップに潜りこんでまで裏側を描ききる。ゴヤって、最高にロックでジャーナリズム精神あふれる画家なのではないか…?ついついそんなことを思ってしまいます。
これ以外にも、意味を知れば知るほど皮肉が効いているスパイシーな作品をたくさん残しています。
「ロンドンナショナルギャラリー展」に展示されていた「ウェリントン公爵」も、そのひとつだとお見受けしました。気になる方はそちらの感想を書いた記事も一緒に読んでみてください!
→ 【美術館巡り】「ロンドンナショナルギャラリー展」に行ってきた!
ゴヤが4年間外出せずに描いた「黒い絵」が怖すぎる

ゴヤは別荘「聾者(ろうしゃ)の家」の壁に14点の装飾用絵画「黒い絵」を描きました。4年間ほとんど外出することなく描いたというところにゴヤのヤバさがにじみでていますよね。
キーとなるカラー「黒」ですが、じっくり目をこらしてみると色々な色を使って表現していることがわかってきます。この複雑な黒の謎を解き明かそうとしたのか、フランスの画家・エドゥアール・マネもゴヤの「黒」に影響を受けたといわれています。

それでは早速、「黒い絵」の代表作4つをみていきましょう!(ほとんどホラー画像なので心してご覧ください…)
我が子を食らうサトゥルヌス

ギリシャ神話に登場するゼウスの父親・クロノス(ローマ神話ではサトゥルヌスという)は、「自分の子どもに権力を奪われて殺される」という予言を受け、生まれてくる自分の子どもたちを次々に飲み込んでしまいます。
ほかの画家もこの神話を題材として絵を描いていますが、これほどまでに狂気的に表現したのはゴヤだけ。
恐ろしいのはその表情だけではありません。もう消されてしまっていますが、我が子の頭を噛みちぎるクロノスの男性器は、大きく膨張して描かれていたのだそう…(怖)
さらにゴヤはこの絵をキッチンで描いていたこともわかっています。外出もせずにこの絵を見ながら毎日毎日ご飯を食べていたかと思うと、恐ろしすぎますよね。
笑う女たち

1人の男と2人の女が描かれているこの作品。実は自慰行為をしている男を、女があざ笑うかのように見ているシーンだと言われています。(なにそれ)左側の女性はそれを見ながら自慰行為をしているともいわれているそう。(怖すぎ帰りたい)
西洋絵画に登場する女性といえば、ふっくらした柔らかそうな肌の美しい人が多いイメージですが…硬そうな肌に真っ黒な目の、いやらしい笑い方をしている女性像が、晩年のゴヤの頭に浮かんでいたのでしょう。今晩にでも夢に出てきそうですね!
食事をする二人の老人

2人の老人がダイニングテーブルで食事をしていますが、右側の老人はこの世のものではありません。でも指を指している?本を開いている?ので、意識があるようにも見えます。
左側の老人はスープのようなものを食べていますが、右側の老人と同じ方向に指を差して目をギャンと見開きながらそちらの方向を見ています。(一体なにがあるの…)「右側の老人になにか指示をされているのでは?」という見解もあるようです。
砂に埋もれる犬

14枚ある「黒い絵」のうち最後に描かれているので、「書き途中なのでは?」と読む見方もあるこの作品。
一見すると今までのどんよりとした黒い作品に比べて明るい印象を受けますが、よく見ると砂のカサがどんどん増えてきて犬が今にも埋もれてしまいそうなシーンを描いています。(見てるこっちまで苦しい…)
頑張って犬かきをして顔を出しているけれど、しばらくするとこの犬は完全に砂に埋まってしまうでしょう…(やめてあげて)なんとも不安を掻き立てられる不気味な絵です。本来かわいいイメージの犬も、ゴヤの手にかかれば途端に滑稽で可哀想なものに見えてきます。
ゴヤが歴史を教えてくれる

「すごく怖い」と思うのは、ゴヤの絵よりもその時代背景です。ゴヤは宮廷にいたからこそ数々の理不尽な「異端審問」や争いを目の当たりにしてきたのでしょう。
狂気に満ちた画には、不安・恐怖・怒り・悲しみなどが反映されているように思えます。ゴヤの描く「黒」こそが、本当の歴史を伝える覚悟と説得力に思えてならないのです。
だからこそ理不尽な政治体制に違和感を覚えていたり、自分に自信のなかったりする私のような人間の心にもガツンと響くんだと思います。
「ゴヤが大好き!!!」と大声で言いにくい画家ではありますが(失礼)、私はそれでも言いたい。ゴヤが大好き!!!